虫歯といえば、お口のトラブルの代表といえる存在です。虫歯の痛みのイメージは、痛くて夜眠れない、頬を手で押さえるといった様子を思い浮かべるのではないでしょうか。虫歯には、進行具合によってさまざまな痛みの現れ方があります。今回は、虫歯について「痛み」のポイントからご説明いたします。
虫歯とは?
虫歯とは、お口の中に存在しているミュータンス菌に代表される細菌が、食べ物や飲み物を餌として、酸を産生することで歯が溶けるお口の代表的な病気です。医療用語ではう蝕(うしょく)と呼ばれる感染症の1つです。
歯が溶けて、色が本来の色よりも暗く変色し、大きくなると穴があいてしまう見た目から虫歯という名前がついています。
虫歯には、C0からC1、C2、C3、C4という進行のステージがあります。学校や職場の歯科健診で、歯科医師の先生が記録をとる歯科衛生士さんに「6番がC2、7がC1・・・」と順番に伝えているのを思い浮かべるとわかりやすいかと思います。虫歯は、ステージの進行具合によって、症状も異なります。では、具体的にはどのような痛みがあれば、ステージはどれくらい進んでしまっているのでしょうか。
虫歯の各ステージで感じる痛みの症状
C0:初期の虫歯
この段階は、まだご自身で症状を認識する方は少ないと言えます。
鏡でじっくり時間をかけて、ご自身の歯を観察していた時に、歯の一部がなんとなく、ほかの部分に比べて艶がない、白く濁っているということに気付く方もいらっしゃるかもしれません。自覚症状として、痛みはまだ出ていないため、健診等でC0と言われると驚かれる方も多いのですが、歯磨き粉などに含まれるフッ素の再石灰化作用で健全な歯質を取り戻すことができる段階です。
C1:エナメル質の虫歯
歯の一番表面にある、エナメル質に虫歯の範囲が限られています。
この段階でも、まだ自覚症状として痛みが出ることは少ないです。
C2:象牙質の虫歯
歯の最表面にあるエナメル質の下には、象牙質があります。この象牙質まで虫歯が進行すると、何らかのきっかけで痛みを生じることがあります。痛みよりも「違和感」として感じる方もいらっしゃいます。
具体的には、「冷たいアイスを食べるとズキンとした」、「甘いものを食べた時だけ違和感がある」、「風がしみる」といった表現があります。
刺激により、痛みが発生するため、C2の段階で歯科医院を受診される方が多いです。
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C2の段階が重要で、神経を残せるか残せないかの瀬戸際になります。
昔は虫歯を削って神経が出てきたら無造作に神経を取る治療が主流でしたが、現在はMTAというお薬を使うと神経を残すことができます。
これが生活歯髄療法と言い、神経をできるだけ残す治療法です。
C3:歯髄炎、根尖性歯周炎
この段階は、象牙質の真下にある神経まで虫歯が進行しています。虫歯がズキズキ痛い、痛みで眠れないという段階は、まさにこの歯髄炎のステージです。
痛み止めのお薬が必要なほどに強い痛みを感じる段階ですが、ある程度の期間を過ぎると痛みがうそのようになくなり、違和感のみが残ります。例えば、「食べ物を噛んだ時に、ズキッとしたのに痛みが無くなった、でも、じわっと変な感じがある・・・」といった感じでしょうか。
痛みが無くなったので、もう虫歯が治ったかもと思いたいお気持ちはわかりますが、残念ながら虫歯は自然には治ることはありません。痛みが無くなったのは、歯の神経が虫歯の感染により死んでしまったためです。痛みが無いとはいえ、感染した部分を除去する治療が必要です。
C4:残根
C3の段階を放置していると、虫歯を引き起こすミュータンス菌の活発な活動により、どんどん歯は溶かされていきます。そのため、歯には大きな穴があき、歯の形はほとんど崩壊してしまって歯の根っこしかありません。C4の残根状態は、すでにC3の段階で歯の神経が死んでしまっているので、ズキズキするような強い痛みはありません。しかし、このまま放置していると細菌の温床となり口臭の原因にもなります。また、歯の根っこの先に膿がたまり、炎症が顎の骨へと進み、また強い痛みを感じる危険性があります。
すぐに歯医者にいけない時の応急処置
虫歯かな?と思ったら、まずはすぐに歯医者さんに行くことをおすすめします。
早め早めの受診が、痛みの対処には一番ですし、何より治療期間や、回数も少なくて済みます。
しかし、お仕事が忙しい、テストがあって休めないといった学校の都合など、日中に歯医者さんにいけなかったとしたらどうしたらよいでしょうか?
頭痛や生理痛などに効く市販の痛み止めや、風邪などの発熱時に内科で処方された解熱鎮痛薬はお手元にないでしょうか?これらのお薬は、虫歯の歯の痛みにも有効です。夜間に痛みが強く眠ることができないといった状況になった際には、痛みどめを飲み、一時的に痛みを緩和し、翌日早い段階に歯医者さんを受診しましょう。痛みどめで虫歯の痛みを一時的に飛ばすことができても、虫歯自体は自然には治りません。対処療法でしかないため、あくまでも応急処置です。
虫歯の痛みが強い時に避けること
痛みが強ければ、激しいスポーツをする気にはならないとは思いますが、スポーツなどを行うと、血行が良くなります。そのため、痛みのある歯への血流量も増加するため痛みが強くなります。スポーツに限らず血行が良くなることといえば、要注意は「お酒」と「熱いお風呂」です。痛みが強く眠れないので、お酒を飲んでみることや、緊張性の片頭痛への対処のように熱いお湯につかることは、歯への血流量を増加し、痛みを増加させます。痛みを感じないように良かれと思って行ったことが、痛みを余計に強くしたら元も子もありません。
歯が痛い時には、熱いお風呂につかること、お酒を飲むことは避けましょう。
虫歯の痛みを放置すればどうなるの?
虫歯にはC0からC4まで進行によりステージがあることはお伝えしました。痛みを感じ始めるのがC2の象牙質の虫歯、そこから激しい痛みを感じる歯髄炎や根尖性歯周炎のC3の段階を経て、残根状態のC4になると痛みを感じなることも、前述の通りです。
痛みが無くなったのだから、忙しいし、お金もかかるからもういいやと思われる方や、どうしても歯医者さんが苦手という方もいらっしゃることともいます。いずれにせよ、歯医者さんの受診はできる限り、早く行いましょう。
痛みを感じ始めても、C2の段階の小さな虫歯であれば、削って詰めて治すことも可能です。治療の回数も1度で済むかもしれません。しかし、痛みが強いC3や、歯がほとんど崩壊してしまったC4の段階へ進行していると、歯の神経の治療を行い、かぶせ物のために型どりを行ったりと、治療の回数や費用も負担が大きくなります。C4のように残根状態となれば、痛みはありませんが、抜歯を行う必要があり、麻酔を行い歯を抜くことになるので、注射の痛みや、抜歯後の痛みを感じることになります。
何度も同じことの繰り返しになりますが、早めの受診が大切なのです。
まとめ
虫歯で歯が痛いといえば、『ズキズキして眠れない』、『甘いものを食べた時にズキンとする』、痛みで頬を手で押さえるといった状況が容易に想像できます。虫歯は、神経まで進行してしまうと、激しい痛みになりますが、神経が死んでしまうと痛みを感じなくなります。しかし、虫歯は自然に治ることはないため、痛みが無くなったからといって虫歯が治ったわけではありません。虫歯は痛みを感じる前に定期的に健診を行うこと、痛みを感じたらすぐに受診をすること、激しい痛みがなくなったからといって放置しないことが大切です。
痛みやしみるといった不快感は、数日でだんだんと消失していくことが予想されます。これは、神経の近くに第二象牙質という組織が作られ、刺激から神経が守られるようになることや、神経をとる治療中であれば、根管内にいれたお薬により、感染した組織が消毒され症状が鎮静化するためです。
しかし、痛みがどんどん強くなる、治療した歯の周りが腫れてきたといった症状が出た場合には、歯科医院を受診し、一度確認してもらいましょう。何らかの感染を起こしてしまった場合には、処置が必要です。
せっかく治療を行った歯に痛みや不快感があると心配になってしまうものですが、感染を引き起こすことになるので、くれぐれも指や舌で治療直後の歯を刺激しないようにしましょう。症状が治まらず、痛みや違和感が増加していく際には、歯科医院を受診し、一度確認してもらうことが大切です。